新刊紹介『世界を魅了する美しい宝石図鑑』
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『世界を魅了する美しい宝石図鑑』
著者:Judith Crowe 日本語版監修:石橋 隆
発行所:創元社,2022年2月10日発行,A4判変型,192頁,定価3,080円(本体2,800円+税),ISBN978-4-422-44033-0 C0044
今まで多くの宝石関連の書籍が出版されてきたのだが,最初に驚くのが,綺麗な印刷で多くのカラー写真が満載のこの本が,何と3,080円で購入できることであろう.原書を見ていないので,著者の鉱物学的素養や日本語訳の精度などわからないが,監修した石橋 隆会員が原書には多分ないと思われる日本の情報をうまく取り入れながらまとめているようである.最初の8〜41ページが鑑別,物性,処理など宝石や鉱物についての基礎的知識に当てられ,44〜183ページが「宝石名鑑」という宝石種ごとの各論という構成である.184と185ページは付録的に,誕生石,星占いと宝石となっている.「宝石名鑑」は,ダイヤモンドから始まり,コランダム(ルビー,サファイア),ベリル(エメラルド,アクアマリンなど)といった定番の宝石から,あまり一般的でないアイオライト,プレーナイト,スギライト,スカポライトなどなどまで,また鉱物ではないが宝石として無視できない真珠や珊瑚など,37種類が原石,ルース,装飾品のカラ
ー写真と伴にわかり易く解説されている.
著者は宝石ディーラーでもあるので,掲載すべきであったと思われる点がある.よほどの資産家以外,気に入った宝石かどうかより,まず予算が優先であろう.紹介されている宝石には価格の表示がないが,たとえばダイヤモンドのあるランクの1カラットを標準として,それの何倍くらいかが表示されていたら,宝石のランクがわかり,一般人には非常に参考になると思う.
いくつか問題点や疑問点があり,たとえば本書では徹底的にアルファベットを排除したようだが,せめて宝石名には英語表記は残すべきである.宝石業界では,何でもカタカナ表記してしまうようで,たとえば真珠でなくパールと言っているようだが,本書では真珠となっていて他との整合性がない.また,目次では翡翠とされているのに,本文中の表題ではジェダイトなっていて,これもよろしくない.さらに,宝石学的データのところで,別和名と称する項目があるが,宝石の別和名と鉱物の和名が渾然となっていて,改良すべき点である.化学組成についても,元素の和名だけで(化学式がない),鉱物に少しでも関心ある人には違和感がある.粗探し的な指摘をすれば,アンドラダイトでは鉄とすべきところがアルミニウムになっている.また,ガーネットの和名は「石榴石」であって「柘榴石」ではなく,柘は植物のザクロに使う.
しかし,細かい問題点や誤りはどの本にでもあるので,あまり気にせず,宝石に興味があってもお金に余裕がなくて買えない人でも,この本なら気楽に買って楽しむことができる.内容,印刷,デザイン,装丁の面で,最近出版されたもっともコストパフォーマンスに優れた鉱物関連の書籍なので,多くの会員にお勧めする.
紹介文執筆者:松原 聰