新刊紹介『地球にじいろ図鑑 鉱物×日本の伝統色』
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『地球にじいろ図鑑 鉱物×日本の伝統色』
著者:茜 灯里
発行所:化学同人,2023年7月30日発行,A5判,162頁,定価:本体1,700円+税,ISBN978-4759820966
本書は色を切り口として,自然界にある鉱物や宝石,植物,動物を紹介した読み物である。章立ては赤,橙,黄,緑,青,藍,紫,と虹の七色の順になっており,最後に無彩色の「白灰黒の章」が加えられている。各章の中では,1ページに1色ずつ,さらに細分化された日本の伝統色の名前とともに,鉱物(または宝石),植物,動物がそれぞれ1つずつ紹介されている。鉱物を色別に分類して掲載し,しかも同系色の植物と動物も必ず写真付きで並べて紹介する本書のスタイルは今までになかった新しいものである。鉱物図鑑にありがちな,内容を理解するために必要となる専門知識の解説が冒頭にあるわけでもなく,各ページにも鉱物の諸性質についての難解なデータシートはない。こうした構成は,文系の読者や,鉱物に興味を持ち始めたばかりの初心者にも読みやすいように意識されたものであろう。本のタイトルこそ「図鑑」とあるが,本書は鉱物の図鑑というより,色についての図鑑と言えるかもしれない。
著者は実に多彩な経歴の持ち主で,東京大学理学部地球惑星物理学科を卒業後,新聞記者,宝石鑑別機関勤務を経て,地球惑星科学専攻で博士号を取得,さらに獣医学課程を卒業して獣医師の資格も取得しており,大学での教鞭をとったり,小説を執筆したりもしている。宝石学の資格も複数取得しており,鉱物や宝石についての造詣の深さと,作家や科学ジャーナリストとしての視点が,本書に生かされている。
各ページの解説文には鉱物や宝石について書かれており,動植物については写真のみで特に解説はない。鼈甲(べっこう)やパールなど,鉱物ではない生物由来の宝石も紹介されている。ページタイトルは伝統色の次に宝石のカタカナ名が記され,鉱物の写真の下には和名が書かれているが,これらの名称はいずれも鉱物の学名とは限らず,宝石名や広く知られた一般名称が使われている。鉱物名との対応は本文中にさらっと説明されていたり,巻末の「登場鉱物の特性一覧」にまとめられているのだが,族名,種名,変種名 (variety name)の区別があいまいでわかりにくい点は気になった。おそらく,一番馴染みやすい名称を前面に出して読みやすくする工夫と,難しい話を毛嫌いする読者にも配慮した結果と思われるが,同じ鉱物でも多くの異なる宝石名が使われたり,同じ名称でもガーネットのように様々な種類があったり,名称で混乱する人も多いだけに,むしろ名前の説明はもう少しあっても良かったかもしれない。各章の間には色にまつわる7つのコラムが挿入されており,巻末には最低限の用語解説に加えて,各伝統色についてのカラーチャートも掲載されている。オレンジ色の宝石にはどんな石があるだろう,紫色の宝石は…などと色から石を探すことのできる本書は,鉱物の入門書として,どのページから読んでも楽しい書籍である。
紹介文執筆者:門馬 綱一