新刊紹介『日本全国鉱山めぐり 決定版』
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著者:五十公野 裕也
発行所:誠文堂新光社、2025年3月11日発行、A5判、192頁、定価:本体2,500円+税、ISBN:978-4-416-52438-1

本書は日本各地の鉱山跡について、その産出鉱物の解説はもちろん、歴史遺構としての魅力や坑道探検といった楽しみ方を伝え、さらに鉱山跡見学の「ガイドブック」となることを目的に執筆されたものである。特に著者が厳選した31ヶ所の鉱山跡について、「売り」となる見どころが鉱山別に詳しく紹介されるとともに、その歴史や鉱床・鉱物の特徴も合わせて、わかりやすい解説にまとめられている。レイアウトにも工夫があり、見出しをサッと追っていくだけでも、その鉱山のポイントがよく伝わってきて、どのページを開いて読んでみても面白い。また写真がとても充実しており、中でも坑道の写真はどれも著者の渾身のものであろう、なんとも吸い込まれていきそうだ。そして本書の特徴として、31ヶ所の鉱山跡を「おすすめベスト5」のほか、「廃墟・遺構」、「坑道探検」、「鉄道・トロッコ」、「歴史遺産」、「砂金採り」、「展示充実」のカテゴリーに分けて紹介している。そのため「歴史遺産巡りが好き」という人や、「子供が乗り物好き」というご家族など、一般の方々も鉱山を楽しみやすいよう、うまく構成されていると感じた。そして本書を活用することで、一般の方々も鉱床・鉱物について自然と詳しくなるであろう。
また、本書はこれら31ヶ所の鉱山跡の紹介のみならず、全国110ヶ所の「見学可能な鉱山跡」を、「現地の状況」の情報と合わせてリスト化しており、鉱山めぐりのガイドブックとして実に有用である。一方で、安全面を中心とした鉱山跡を見学する際の注意喚起も、本書の最初にしっかりとなされている。加えて全国50ヶ所の「鉱石の展示が充実した博物館・資料館」のリストや、要点を押さえた「用語解説」も収録されており、最初に本書を手にした時には思わず「素晴らしい」と唸ってしまった。ぜひ会員の皆さんにも一度手にとってもらいたい。開けば鉱山跡に足を運んでみたくなる、魅力的な一冊である。
そう言う私はついつい、本書を片手に最寄りの鉱山跡(別子銅山)に行ってみた。まず本書でも詳しく紹介されている「東洋のマチュピチュ」とも呼ばれる東平(とうなる)地区を訪れたが、急峻な四国山地の山中に、かつて数千人が密になって暮らす鉱山都市があったこと、狭い土地を縫うように鉄道を走らせていたこと、斜面に石垣を積んで段々畑のようにして住居や病院、保育園や学校、娯楽場まで建てていたことなどなど、実際に遺構を見ながらその場を歩いてみると、そこに暮らしていた人たちの生活も自然と想像され、ひたすら感嘆するばかりであった。こうして鉱山跡を「産業遺産」と思って訪れてみると、鉱山の発見・開発から成長と発展、そして閉山までの歴史もとても興味深くなり、気がつけば朝から丸一日を過ごしてしまった。私は幼少期を人口減少の進む炭鉱の町で過ごし、日々のニュースで報じられる地元炭鉱の「合理化」(人員削減のこと)や「閉山」といった暗い言葉を耳にしていたためか、廃坑となった鉱山跡に対しても、どちらかというと切ない印象を持っていた。しかし本書とともに鉱山跡を訪れてみて、その「産業遺産」としての価値と魅力に気付かされたように思う。そして、次の鉱物科学会年会の際には、本書で紹介されている年会開催地近くの鉱山跡にも、ぜひ立ち寄ってみたいと考えている。
紹介文執筆者 斉藤 哲