新刊紹介『生命起源の事典』
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『生命起源の事典』
監修:生命の起源および進化学会
発行所:朝倉書店、2024年4月5日発行、新書版、300頁、定価(本体7500円+税)
ISBN978-4-254-16078-9
どのように生命が誕生したのか?誰でも考えたことがある問いは、宇宙探査においても主要な問いとして掲げられている。身近であり壮大でもある研究テーマの「生命の起源」を対象にした事典が初めて出版されたと聞き、手に取ってみるとそのコンパクトさに驚いた。事典では一般的な専門用語解説の羅列を想像しながら、思い切って真ん中から開いてみると、「宇宙での化学進化」と称した章が目に飛び込んできた。「星の一生」から始まり「宇宙探査」で締めくくられている。驚いたことに数多くの著名な著者が分担して各項目を執筆しており、内容も一般向けのわかりやすい解説と共に、その分野の研究者が読んでも読み応えがある最新情報までが所せましと書かれている。そのまま読み進んでいくと、次は「地球の化学進化」の第4章に突入し、この章では生命誕生に不可欠な全球スケールでのプロセスから、ミクロや分子レベルでの反応まで、図表を駆使して丁寧に解説されている。特に、岩石や鉱物が果す役割について言及されている箇所が、至るところに散りばめられており、地学を専門とする読書に興味を引く章となっている。生物系については化学進化を挟み込むように第2章「生き物の仕組みと変遷」と第5章「物質から情報・システムへ」にまとめられており、第2章は地球生命とは何か?第5章は生命誕生に関わる生物プロセスについて、それぞれ詳しく書かれている。生命系の専門知識でつまずいた読者に向けて、第1章で専門用語の解説による手厚いケアがなされている。
地球上の岩石・鉱物と微生物の相互作用を研究している書評の筆者にとっては、この事典から学んだことを統合して、生命の起源を俯瞰した上で自分の研究にフィードバックできる点と、それを可能する系統性と網羅性を兼ね備えた本書の編集を高く評価する。是非、この事典を通じて生命の起源に関する知識の裾野を広げ、自分の研究との接点を見つけてもらうことを多くの会員にお薦めする。
紹介文執筆者:鈴木 庸平