新刊紹介『鉱山を巡って楽しむ日本のきれいな鉱石図鑑』
一覧はこちら新刊紹介『鉱山を巡って楽しむ日本のきれいな鉱石図鑑』
著者:五十公野 裕也
発行所:創元社、2025年10月15日発行、A5判、160頁、定価:2,500円+税、ISBN:978-4-422-44048-4

日本産の「鉱石」をテーマとして取り上げた図鑑が出版された。本書では鉱石だけでなく,鉱石を採掘していた(している)日本の鉱山の魅力を多数のカラー写真によって紹介しており,鉱山見学ガイドブックとしても利用できる一冊となっている。
本書は,第1章「鉱石」について知ろう,第2章 日本のきれいな鉱石図鑑(金属鉱石,非金属鉱石),第3章「鉱山」について知ろう,第4章 鉱山に行ってみよう,の4章から構成されている。本を閉じた状態の側面には章ごとに色が塗り分けられており,目的の章が簡単に見つけられるよう工夫されている。本書の主要部分は第2章と第4章であり,前者が鉱石図鑑の部分,後者が鉱山案内ガイドとなっている。
第2章では,金鉱石などの金属鉱石21種類と,蛍石などの非金属鉱石12種類が,豊富なカラー写真を用いて紹介されている。塊状鉱石だけでなく,可能な限り結晶形を示す鉱物を含む鉱石写真が掲載されている。鉱石図鑑という性格上,鉱石を構成する各鉱物の特徴に関する記述は最小限にとどめられている。写真のキャプションには,色や形状によって各鉱物の特徴が記述されているが,初心者にとっては,写真のどの部分がどの鉱物に対応するのか理解しづらい場合もある。矢印を用いて鉱物名を示すことができれば,キャプションの内容がより分かりやすくなると感じた。
第4章では,青森県から鹿児島県までの16県に位置する17鉱山について,2025年7月現在の情報を基にした鉱山見学案内が示されている。大部分は休廃止鉱山であるが,現役鉱山として八戸石灰鉱山(青森県)と粟代鉱山(愛知県)が含まれている。各節の冒頭には1行案内(例えば「巨大な露天掘りを眺められる稼働中の石灰石鉱山」)が示され,各鉱山の特徴や見どころがすぐに分かるよう工夫されている。ズリ,露頭,坑口,坑内の様子,産出鉱石だけでなく,選鉱場跡,精錬所跡,ホッパー跡などの鉱山遺構の写真も多数掲載されており,鉱山の沿革,鉱床の地質学的特徴,鉱床のタイプ,産出鉱石が解説されている。著者が実際に現地を訪れているため,露頭や遺構の描写は緻密である。各節の最後には,見学情報と見どころ地点がプロットされた地形図が掲載されている。鉱山(跡)には,立ち入り禁止区域や危険な場所があり,クマなどの危険な生物が出没する場合があるため,本文中に記載されている注意事項を遵守した上で見学することが重要である。初回の訪問では現地をよく知る者と同行することが望ましい。
第1章と第3章は,それぞれ鉱石と鉱山の解説となっている。これから鉱石・鉱物に親しもうと考えている方はまず第2章と第4章をよく読んだ上で鉱山跡を訪れ,その後で第1章と第3章を読んで専門的知識を深めるのがよいだろう。本書の末尾には,用語集も掲載されている。
本書は,鉱床のでき方,鉱石,鉱石を構成する鉱物,鉱石の用途,鉱石の採掘方法など,鉱石に関する知識がコンパクトにまとめられており,鉱石や鉱山の入門書として最適である。地学初心者の方が現地で黄鉄鉱の結晶や水晶などの鉱物を採集できれば,自然に地学への関心を持ち始めるであろう。本書が,多くの人に地学に関する知的好奇心を芽生えさせる一冊となることを願う。
紹介文執筆者:坂野 靖行