新刊紹介『麗しの宝石・結晶・鉱物 ~近山晶コレクション~』
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著者:阿依 アヒマディ
発行所:学術研究出版、2025年10月17日発行、B5判、176頁、定価:2,727円+税、ISBN:978-4911449509

本書は、日本の宝石学の父である近山晶氏の貴重な鉱物・結晶コレクションから厳選された600点超の宝石質の鉱物標本の写真と産地情報、解説を掲載し、後半では宝石学の基礎やその教育の歴史について詳しく紹介している。宝石の原石を中心に綺麗な鉱物のカラー写真が盛沢山で、美術的にも学術的にも存分に楽しむことのできる入門書といえる。
本書は、Part 1「地球の奇跡」、Part 2「結晶の世界」、Part 3「宝石学の教育」、Part 4「近山晶の軌跡-日本宝石学の礎を築いた先駆者-」の4章から構成される。
Part 1「地球の奇跡」では、宝石の原石(鉱物)が地球のどのような場所でどのようなプロセスによって生成されるかについて、6つの成因タイプに分けて詳しく解説し、その実例としてハイクオリティな標本を多数紹介している。標本写真一つ一つについて詳細な産地情報と大きさ、特徴や成因に関する解説が添えられているのは素晴らしい。後半には近山コレクションのギャラリーとして、母岩付きのダイヤモンドやルビー、エメラルドの原石のほか、ヒスイ、水晶、カルセドニー、オパールの原石など目を引く標本写真がずらりと並んでいる。
Part 2「結晶の世界」では、宝石鉱物の結晶の形に着目して結晶系の分類と形態的特徴を説明し、それぞれに典型な標本を紹介している。双晶についても詳しく言及され、近山コレクションから日本を含む世界各地の水晶の日本式双晶の標本が多数紹介されている(見開き左右一面に24点もの日本式双晶の写真が掲載されている)。そのほか、結晶の形態・組織に注目すべき近山標本が多数掲載されている。
Part 3「宝石学の教育」は本書の特色と独自性を象徴するセクションといえ、宝石学の始まりと近代化の歴史、さらに宝石の内部に含まれる様々なインクルージョンの起源や成因、合成宝石の製造方法、宝石鑑別のための分析手法まで詳しく解説されている。特に、インクルージョンについては、暗視野照明を備えた宝石顕微鏡での撮影写真を中心に、肉眼では到底見ることのできない多彩な包有物の産状や色彩の変化など、宝石の内部に秘められたもう一つの魅力を伝えてくれる。また、宝石の合成法に関しても、火炎溶融法、結晶引き上げ法、フラックス法、水熱法などの古典的手法から、人工ダイヤモンド合成に用いられる高温高圧法や化学気相成長法まで、各手法の原理、歴史と現状、実際の合成物などについて詳しくまとめられている。さらに、宝石鑑別を行う上で重要な器具や機材についての解説に加え、厳密な宝石鑑定では不可欠な蛍光X線分析装置やレーザーアブレーションICP質量分析計などの高度な分析装置を備える、著者が所長を務めるGSTV宝石学研究所のラボの様子も紹介されており、現代宝石鑑別の一端を知ることができる。
最後のPart 4「近山晶の軌跡」では、日本宝石学の礎を築き、長年に渡って同学問を牽引してきた近山晶氏の研究の歴史と活動の功績が紹介されている。さらに、膨大な近山コレクションの立派な鉱物結晶標本をジェムミュージアムに陳列するまでの過程が写真を交えて紹介され、関係者の寄稿をもって結ばれている。
多数の美しい鉱物結晶のカラー写真を掲載する本書は、図鑑としても高い魅力を備えているが、日本の宝石学の礎を築いた近山晶氏の功績を含めた日本の宝石教育の歩みを学ぶことのできる数少ない資料でもある。専門家のみならず、宝石や鉱物に関心を持つ幅広い読者にとって、宝石鉱物の美と科学的背景を同時に味わうことのできる魅力的な一冊であるといえよう。
紹介文執筆者:大藤 弘明