新刊紹介『天変地異の地球学 巨大地震,異常気象から大量絶滅まで』
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『天変地異の地球学 巨大地震,異常気象から大量絶滅まで』
著者: 藤岡 換太郞
発行所:講談社ブルーバックス,2022年8月18日発行,新書,240頁,定価1,100円(本体1,000円+税),ISBN978-4-06-529098-9
地球の歴史についての解説書はたいへん多いが,「天変地異」を主眼においたものは少ない.本 書はそこに焦点を当てて書かれているが,たいへん面白く,また地球の歴史を概観するのにとて も便利である.
まず「序章」で,天変地異とは「人間の文明や生物の棲息を脅かす自然の猛威というべきもの であり,その原因をなす天文・気象現象(天変)や地学現象(地異)などの地球科学的な現象が,天変 地異である」と定義している.最近,私たちが身近に経験している台風,洪水などの気象災害, 地震,津波,火山噴火などの固体地球災害,パンデミックなどの生物災害などを概観し,それら の原因を示す.そして,天変地異にはさまざまなサイクルがあり,これには短いもの,長いもの が階層的に存在するとして次章以降にこれを解説していく.
第1章「人類が経験した天変地異」では,スケールの短い一週間程度から数百年という周期のサ イクルで起きる潮汐,エルニーニョ,ラニーニャ,台風,地震,火山活動などを述べている.こ れらの災害は,とくに私たち日常的に感じているところである.そして「災害とは,地球の進化 にとってひき起こされる必然の結果である」と著者は言う.
第2章「空,海,陸と天変地異」では,100万年~1000万年といったサイクルの天変地異をみて いく.地質時代では新第三紀から白亜紀ころの時代に相当する.ここで著者は,固体地球圏,水 圏,気圏,磁気圏という中での相互の影響を考える.氷期と間氷期,ミランコビッチ・サイクル, 南極大陸分裂,ゴンドワナ大陸分裂などによる海流の変化とその機構への影響,そして「メッシ ニアンクライシス」といわれる地中海の干上がり,ヒマラヤ山脈の成立とモンスーン気候,日本 列島の東西圧縮と日本アルプスの生成などについて解説する.
第3章「生物を襲った天変地異」では,古生代から中生代末にかけて起こった生物の興亡とそれ による相互の環境変化が述べられる.地球上に生物が爆発的に出現したカンブリア紀の大爆発, オルドビス紀の生物多様性,シルル紀の植物陸上進出,デボン紀の大森林時代と動物の陸上進出, 石炭紀の大気中酸素濃度の増加とデボン紀末・ペルム紀末の海洋無酸素事変,さらにこの間,5回 にわたる生物大量絶滅の原因など.さらに白亜紀初期の活発なプレート生産による大海進,そし て中生代の終焉となった隕石衝突による生物絶滅などが紹介され,これらにはいくつかのサイク ルを唱えている説があることなど,興味は尽きない.
第4章「究極の天変地異」において,著者はペルム紀末の「パンゲア」はじめ,それ以前の超大 陸は3億年の周期で生成・分裂が繰り返される「ウィルソン・サイクル」を紹介し,この運動の原 動力となるプルームについて,そしてそれがもたらしたシベリアの広大な火成岩岩石区,太平洋 のオントンジャワ海台やインドのデカン高原の玄武岩などの活動による大量の二酸化炭素放出の 影響による「スノーボールアース」の解説となる.そして,現在の地球環境を決めているのは「プ ルーム」であるとしている.
終章「銀河と天変地異」において,地球上で起こるさまざまな天変地異は,太陽系が天の川銀 河の中で上下運動と回転運動を行うメリーゴーラウンドのような動きによるというランピーノの 説を紹介している.
一読して驚くのは,著者の博識を基にした平易な語り口である.日常的に経験する地震,水害, 火山災害,気候変動などから生物の絶滅,大陸の生成と分裂,さらに太陽系から銀河系の中の運 動がそれぞれに関連付けられて分かりやすく解説されていることである.著者はこれまでに6冊ほ どこの叢書から地球科学に関する解説書を公刊しているが,いずれもその語り口は平易で,かつ 地球科学の最前線の話題をとりあげている.初心に帰って,地球の,さらに太陽系,銀河系につ いて.現在から過去にわたって辿ってみることが大切だと感じさせる.まさにパンデミックの最 中にあるコロナ禍の終息の見えない昨今,こういった身近な現象から宇宙の果てまでを辿ってみ るのも,知識の裾野を広げ,頭の体操となるであろう.会員諸氏に一読を薦める.
紹介文執筆者:蟹澤 聰史